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東京高等裁判所 平成9年(行ケ)91号 判決 1998年3月17日

東京都新宿区百人町2丁目23番24号

原告

メリードゥビューティプロダクツ株式会社

同代表者代表取締役

津野田正弘

同訴訟代理人弁理士

光藤覚

アメリカ合衆国

カリフォルニア州 バークレー フィフスストリート 1200

(商標原簿上の本店所在地

アメリカ合衆国 カリフォルニア州 バークレー テンス ストリート 2809)

被告

ジエインズ ストアー インコーポレーテッド

同代表者

ジェイン・ソーンダース

同訴訟代理人弁護士

大野聖二

那須健人

同弁理士

足立泉

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第1  当事者の求めた裁判

1  原告

「特許庁が平成1年審判第15110号事件について平成9年2月26日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決

2  被告

主文と同旨の判決

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

被告は、指定商品を商標法施行令(平成3年政令第299号による改正前のもの)に定める商品区分第4類「化粧せっけん、シャンプー、その他のせっけん類、歯みがき、化粧品、香料類」とし、「THE BODY SHOP」の欧文字を横書きしてなる登録第1788785号商標(昭和57年3月31日登録出願、昭和60年7月29日設定登録、平成8年6月27日存続期間更新登録。以下「本件商標」という。)の商標権者である。

原告は、平成元年9月14日、本件商標につき商標法50条の規定に基づく商標登録の取消審判を請求し、平成元年10月26日同請求の登録がされた。

特許庁は、同請求を平成1年審判第15110号事件として審理した結果、平成9年2月26日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年4月9日原告に送達された。

2  審決の理由

審決の理由は、別紙審決書写し(以下「審決書」という。)のとおりである。

3  審決を取り消すべき事由

審決書2頁2行ないし11頁18行(当事者の主張関係)は認め、同11頁19行ないし13頁4行(判断)及び同13頁5行、6行(まとめ)は争う。

審決は、本件商標の通常使用権者による使用があったと誤って認定したものであるから、違法なものとして取り消されるべきである。

(取消事由)

(1) 審決は、被告がマッジ・インコーポレーテッドに本件商標の使用をライセンスした旨認定するが、誤りである。

被告がマッジ・インコーポレーテッドにライセンスを与えたと主張する時期は1979年(昭和54年)であり、いまだ登録出願されていない状態にあった本件商標について、許諾契約の成否、設定行為の範囲などを何ら検討せず、ライセンス契約を締結することの可能性のみからライセンス契約の成立を認定したことは、事実認定を誤るものである。

(2) 審決は、甲第4号証(審決時の乙第1号証)及び甲第5号証(審決時の乙第2号証)を根拠に、マッジ・インコーポレーテッドが日本国内において商品「香水(希釈液)」、「アイクリーム」に本件商標を使用していたと認定するが、誤りである。

甲第4、第5号証の注文先名宛人は、「The Body Shop」(住所 1341 Seventh Street Berkeley CA)であり、被告が本件商標の通常使用権者であると主張するマッジ・インコーポレーテッドとは何のゆかりもない者にすぎない。

第3  請求の原因に対する認否及び被告の主張

1  認否

請求の原因1、2は認め、同3は争う。

2  被告の主張

(1)  被告は、1979年(昭和54年)12月31日、マッジ・インコーポレーテッドとの間で、被告がマッジ・インコーポレーテッドに対し、日本での商標を含めた「THE BODY SHOP」という商標について、世界中で使用できる商標ライセンスを与える旨の契約(以下「本件ライセンス契約」という。)を結んだ。そして、本件ライセンス契約は、本件商標の登録後も有効に存続するものである(乙第1、第2号証)。

(2)  1987、88年当時、マッジ・インコーポレーテッドは、1341 Seventh Street Berkeley CAに「The Body Shop」という名称の店を構え、日本を含む海外在住の顧客に対して、メールオーダーシステムで、本件商標を付した香水、ボディシャンプー、アイクリーム等の商品を販売していた(甲第4、第5号証、乙第2号証)。

第4  証拠関係

本件記録中の書証目録に記載のとおりである。

理由

1  請求の原因1(特許庁における手続の経緯)及び同2(審決の理由)は、当事者間に争いがない。

2  そこで、原告主張の取消事由の当否について検討する。

(1)  弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第1及び第2号証(公証人作成部分の成立は、当事者間に争いがない。)によれば、被告は、1979年(昭和54年)、マッジ・インコーポレーテッドとの間で、被告がマッジ・インコーポレーテッドに対し、日本での商標を含めた「THE BODY SHOP」という商標について、世界中で使用できる商標ライセンスを与える旨の契約(本件ライセンス契約)を結んだことが認められ、この認定を左右するに足りる証拠はない。そうすると、マッジ・インコーポレーテッドは、本件商標の登録後は、本件商標の通常使用権者の地位にあるものと認められる。

(2)  前記乙第2号証、弁論の全趣旨により原本の存在及び成立の認められる甲第4及び第5号証の各1、2並びに弁論の全趣旨によれば、1341 Seventh Street Berkeley CAに住所を有する「The Body Shop」は、マッジ・インコーポレーテッドの経営する店であったが、1987年6月ころ及び1988年9月ころ、日本在住の顧客に対して、メールオーダーシステムで、本件商標を付した「香水(希釈液)」や「アイクリーム」を販売していたことが認められ、この認定を左右するに足りる証拠はない。

(3)  以上に認定の事実によれば、本件審判請求の登録前3年以内である1987年6月ころ及び1988年9月ころに、日本国内において、本件商標の通常使用権者であるマッジ・インコーポレーテッドがその指定商品である「香水(希釈液)」や「アイクリーム」に本件商標を使用していたものであるから、原告主張の取消事由は、理由がない。

3  よって、原告の本訴請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 伊藤博 裁判官 濵崎浩一 裁判官 市川正巳)

平成1年審判第15110号

審決

東京都新宿区百人町2丁目23の24

請求人 メリードゥビューティプロダクツ株式会社

東京都豊島区東池袋2丁目3番7号 OPM602号

代理人弁理士 光藤覚

アメリカ合衆国カリフオルニア州バークレーテンス ストリート2809

被請求人 ジエインズ ストアー インコーポレーテッド

東京都千代田区大手町二丁目2番1号 新大手町ビル206区 湯浅・原法律特許事務所

代理人弁理士 湯浅恭三

東京都千代田区大手町二丁目2番1号 新大手町ビル206区 湯浅・原法律特許事務所

代理人弁理士 足立泉

上記当事者間の登録第1788785号商標の登録取消審判事件について、次のとおり審決する。

結論

本件審判の請求は、成り立たない。

審判費用は、請求人の負担とする。

理由

1.本件登録第1788785号商標(以下「本件商標」という。)は、「THE BODY SHOP」の欧文字を横書きしてなり、第4類「化粧せっけん、シャンプー、その他のせっけん類、歯みがき、化粧品、香料類」を指定商品として、昭和57年3月31日に登録出願され、同60年7月29日に登録がなされたものである。

2.請求人は、「本件商標の登録を取り消す。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求めると申し立て、その理由を次のように述べ、証拠方法として甲第1号証乃至同第3号証を提出した。

本件商標は昭和60年7月29日登録になったものであるが継続して3年以上日本国内において正当な理由がないにも拘らず商標権者は本件商標を使用した事実がない。

よって本件商標は商標法第50条の規定により取り消されるべき商標である。

3.被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を次のように述べ、証拠方法として乙第1号証乃至同第5号証(枝番を含む。)を提出した。

(1)請求人は、本件商標が、その指定商品(第4類)のいずれについても継続して3年以上日本国内において使用された事実が存しないから、商標法第50条第1項の規定により取り消されるべきものである旨主張している。

しかしながら、被請求人の通常使用権者であったマッジ・イシコーポレーテッド(カリフォルニア州法人)及びザ・ボディ・ショップ・インターナショナル・PLC(英国法人)によって、所謂メイル・オーダー・システムを通じ、本件商標が付された商品「各種シャンプーその他のせっけん類、ナイクリーム、栄養クリーム等、美肌クリーム類、スキンコンディショナー(化粧水)、乳液、デオドラント効果を有す香水類、その他の化粧品等」が、本件審判請求予告登録日(1989年10月26日)前3年以内に日本国内において販売されてきており、法の予定する明らかな商標の使用があったものであるから、請求人の主張には理由がなく、本件審判の請求は成り立たぬものと信ずる。

以下、本件商標使用の事実を証拠と共に明らかにする。

(2)まず、カリフォルニア法人のマッジ・インコーポレーテッドは1979年12月31日より、被請求人のライセンシーとなり、商標『THE BODY SHOP』を付した商品の販売を行って来た。同社はメイル・オーダー・システムを通じて我が国にも販売を行って来ており、『THE BODY SHOP』に係る商品を好む我が国在住の多数の顧客が、メイル・オーダーを通じて各種商品を購入してきた。その一環の使用を証明する為、被請求人は、以下の各号証を提出する。

乙第1号証の1 本件商標『THE BODY SHOP』を付した商品「各種香水(香水希釈液を含む)及び頭皮マッサージクリーム等」の販売に関するインボイス(送り状:写及びその抄訳)-このインボイスは1987年(昭和62年)6月5日付けのものであり、購入者は、大阪府在住のケン・ドワルト氏である。当該商品は空輸により購入者に送付された。

乙第1号証の2 乙第1号証の1に表わされた商品中、「香水(希釈液)」に関する写真1葉-当該写真は、本件商標『THE BODY SHOP』が標記商品に使用されていることを明確に示すものである。

乙第2号証の1 本件商標『THE BODY SHOP』を付した商品「ボディ用化粧水(モイスチュァーローション)、ボディシャンプー、香水(Gardenia)、アイクリーム等」の販売に関するインボイス(写及びその抄訳)-このインボイスは1988年(昭和63年)9月8日付けのものであり、購入者は、京都市在住のブルック・ニール氏である。

乙第2号証の2 乙第2号証の1に表わされた商品中、「アイクリーム」に関する写真1葉-当該写真は、本件商標『THE BODY SHOP』が標記商品に使用されていることを明確に示すものである。

乙第1・2号証に示される各種商品が、本件商標の指定商品即ち「化粧せっけん、シャンプー、その他のせっけん類、歯磨き、化粧品、香料類」の範疇に属する商品であることに疑いはない。而して、これらのインボイスは正しく本件審判請求の予告登録のあった日前3年の期間内に作成されたものであり、その間に標記の如き本件商標を付した商品が我が国の消費者に販売されていた事実は明白である。

尚、この時期に被請求人の標記ライセンシーによって、我が国に配布されていたメイル・オーダー用のカタログを、後日更に証拠として補充する予定である。

次に、近年ライセンシーとなった英国法人ザ・ボディ・ショップ・インターナショナル・PLCも、メイル・オーダーのカタログによって、我が国の顧客に本件商標『THE BODY SHOP』を付した商品の販売を行った。この関連の使用を証明する為、被請求人は以下の各号証を提出する。

乙第3号証の1 本件商標『TEE BODY SHOP』を付した商品「シャンプー、スキンコンディショナー、化粧クリーム等」の購入申し込み書(メイル・オーダー・フォームに記載されたもの:表裏写)-この申し込み書は購入者である新潟市在住のローラ・ブロディー氏自身により記入されたものである。必要とあれば、被請求人には原本提出の用意がある。

乙第3号証の2 乙第3号証の1に示された商品購入申し込みに対し、商品が販売・送付されたが、これに関するインボイス(写)-当該インボイスは、1988年(昭和63年)6月9日付けで作成されたものであり、購入者の住所・氏名、及び購入された各アイテムの一致から、標記の購入申し込みに対して、商品の販売があったことを明確に示すものである。

乙第4号証の1 本件商標『THE BODY SHOP』を付した商品「シャンプー、リンス、化粧クリーム、タルカムパウダー等」の購入申し込み書(メイル・オーダー・フォームに記入されたもの:表写)-この申し込み書は、購入者である大阪府の鐘紡(株)国際事業部により記入されたものである。

乙第4号証の2 乙第4号証の1に示された商品購入申し込みに伴い、購入者である鐘紡(株)が代金支払いを行ったが、この送金の確認文と、国際送金為替金等受領証書(写)-標記支払いが1989年(平成1年)8月10日になされたこと、送金連絡の確認文が同11日付けで作成されたことが確認される。

乙第4号証の3 乙第4号証の1に示された商品購入申し込みに対し、商品が販売・送付されたが、これに関するインボィス(写)-当該インボイスは、1989年(平成1年)8月24日付けで作成されたものであり、購入者の住所・氏名、及び購入された各アイテムの一致から、標記の購入申し込みに対して、商品の販売があったことを明確に示すものである。

乙第5号証の1 本件商標『THE BODY SHOP』を付した商品「シャンプー、せっけん、スキンコンディショナー等」の購入申し込み書(メイル・オーダー・フォームに記入されたもの:表写)-この申し込み書は、購入者である大阪府枚方市のヨシダ・レイコ氏により記入されたものである。

乙第5号証の2 乙第5号証の1に示された商品購入申し込みに伴い、購入者であるヨシダ・レイコ氏が代金支払いを行ったが、この送金に関する国際送金為替金等受領証書(写)-標記支払いが1989年(平成1年)10月3日になされたことが確認される。

乙第5号証の3 乙第5号証の1に示された商品購入申し込みに対し、商品が販売・送付されたが、これに関するインボイス(写)-当該インボイスは、1989年(平成1年)10月12日付けで作成されたものであり、購入者の住所・氏名、及び購入された各アイテムの一致から、標記の購入申し込みに対して、商品の販売があったことを明確に示すものである。

被請求人は、上記乙第1乃至5号証に示したメイル・オーダー・システムによる販売実績の証明は、被請求人のライセンシーによる多数の販売例のほんの一部の例示に過ぎないことを付言する。被請求人においては、更に必要があれば、その他数多くの我が国に於ける商品販売実績の証明を提出する用意がある。又、被請求人は乙第3乃至5号証に挙げた各商品の態様等を示すため、商品カタログ(メイル・オーダー用)や写真の準備をしており、これらも追って証拠として補充する予定である。

(3)叙上の通り、昭和62・63年又平成1年に渡って本件商標を付した「せっけん類及び化粧品の範疇に属する各種のアイテム」は被請求人のライセンシー(通常使用権者)によって、我が国内で販売されていたものである。従って、本件商標は、本件審判請求予告登録日前3年内に、適正に使用されていたことが明らかであるから、本件商標は、商標法第50条第1項の規定に該当せず、その登録を取り消されるべき事由はない。

4.請求人は、被請求人の答弁に対する弁駁を次のように述べた。

被請求人は答弁書に於いて、被請求人の通常使用権者が本件審判請求予告登録目(平成1年10月26日)前3年以内に日本国内に於いて本件商標の使用があったもので請求人の主張は理由がないと答弁し、乙各号証を提出する。

又、被請求人のライセンシーと主張するマッジ・インコーポレーテッドと被請求人との関係について、1979年12月31日よりライセンシーとなり、本件商標を附した商品の販売を行なって来たと主張する。

しかしながら本件商標の登録原簿上(甲第3号証)から明らかなとおり通常使用権者設定はどこにも記載されていない。

又、本件商標の出願は昭和57年3月31日でその設定登録は昭和60年7月20日(1985年)であって権利発生以前に通常使用権者と言える地位にあったとの主張は失当である。

したがって被請求人が主張する通常使用権者たる件外マッジ・インコーポレーテッドなる法人は対請求人との関係に於いては全くの第三者であり、商標法第50条の規定する商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれにも該当せず被請求人の主張は何等理由なきものである。

以上の通り、若し仮りに被請求人提出に係る乙各号証の使用事実が事実であったとしても、その使用は単に第三者の使用にしか過ぎず本件商標の取り消しを免れるものではない。

5.よって、請求人は、「本件商標の登録原簿上より通常使用権者設定はどこにも記載されていない。又、権利発生以前に通常使用権者と言える地位にあったとの主張は失当である。したがって被請求人が主張する通常使用権者たる件外マッジ・インコーポレーテッドなる法人は対請求人との関係に於いては全くの第三者であり、商標法第50条の規定する商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれにも該当しない。」旨主張しているので、まずこの点について検討するに、通常使用権は、商標権者が他人にその商標権について使用の許諾をすることにより発生するものであり、商標登録原簿に登録されることが効力を生ずる要件とはなっていない。また、本件商標の登録前においても、当事者間で本件商標が登録された場合に通常使用権の許諾契約をしたのと同一の結果となる契約を結ぶことも可能である。

そうとすれば、請求人の前記主張のみをもって、本件審判請求の登録前3年以内において「マッジ・インコーポレーテッド」が本件商標権の通常使用権者ではなかったといい得ない。

つぎに、被請求人が提出した乙第1号証及び同第2号証(枝番を含む。)によれば、本件商標は、本件審判請求の登録前3年以内に日本国内において、本件商標権の通常使用権者が指定商品中の「香水(希釈液)」「アイクリーム」について使用していたことを認めることができる。

したがって、本件商標の登録は、商標法第50条第1項の規定により、取り消すべき限りでない。

よって、結論のとおり審決する。

平成9年2月26日

審判長 特許庁審判官

特許庁審判官

特許庁審判官

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